山口地方裁判所 昭和38年(行)2号 判決 1966年3月28日
山口市大字宮野下二、六五五番地の一
原告
まるさ林業有限会社
右代表者取締役
斎薬隆輔
右訴訟代理人弁護士
竹内俊平
山口市今道二六番地
被告山口税務署長
岩見忠義
右指定代理人
川本権祐
同
鴨井孝之
同
大下助一
同
久保田義明
同
常本一三
同
横田正美
同
渡辺岩雄
同
米沢久雄
同
浅田和男
同
中本兼三
同
石田金之助
同
吉富正輝
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、当事者双方の申立および主張
別紙要約書記載のとおり。
二、証拠
(一) 原告会社
甲第一号証の一、二、第二号証提出。
証人中野英男の証言、原告会社代表者本人斎藤隆輔尋問の結果援用。
乙号各証成立認。
(二) 被告
乙第一ないし第四号証の各一ないし四、第五ないし第一六号証提出。
証人井上秀夫、同武田博の各証言援用。
甲号各証成立不和。
理由
一、原告会社が被告に対し昭和三六事業年度分(昭和三六年一月一日から同年一二月三一日まで)の法人所得金額および法人税額について法定期間内にその主張のような確定申告をしたこと、被告がこれに対し昭和三七年六月二三日付でこれにつき原告会社主張のような更正処分をしたところ、原告は右更正処分を不服としてそのころ被告に対し再調査の請求をしたが棄却され、さらに同年一一月一九日広島国税局長に対し審査の請求をしたが、昭和三八年二月一五日付で棄却されたことは当事者間に争いがない。
二、原告会社が昭和三六事業年度分の確定申告をするに当つて、その損金に原告会社代表取締役斎藤隆輔に対する借入金の支払利息として昭和三二事業年度から昭和三五事業年度の既往年度分合計五〇万五、八三六円を計上していたことは当事者間に争いがないところ、被告は右科目を損金に算入すべき支払利息とみるべきではなく当時の法人税法施行規則(昭和二二年勅令第一一一号第一〇条の三第四項、第一〇条の四所定の賞与に該当するものであると主張し、原告会社はこれを争うので、以下この点について判断する。
(一) 原告会社が右斎藤を中心とする同族会社であることは当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第一六号証、原告会社代表者本人斎藤隆輔尋問の結果によれば、同会社の出資者は右斎藤および同人の妻、同人の子、同人の孫のみであることが認められる。
(二) 原告会社は昭和三二ないし三五事業年度中右斎藤に対する借入金利息の支払をしないでいたが、昭和三六年一二月二八日の社員総会で右延滞利息として五〇万五、八三六円を右斎藤に支払うことを決議したことは当事者間に争いがない。
しかしながら成立に争いがない右乙第一ないし第四号証の各一、ないし四、証人井上秀夫の証言によれば、原告会社の昭和三二ないし三五事業年度の各貸借対照表負債の部にはいずれも右斎藤からの借入金その他の未払の負債が記載されているが、右未払利息についての記載は右各貸借対照表にもその他の各種商業帳簿にも存せず右斎藤が原告会社の代表者として自署押印して提出した右各事業年度の原告会社法人税確定申告書にもいずれも右未払利息がその計算の基礎としてあげられていないことが認められる。
(三) 証人中野英男の証言に徴すると原告会社の主張する右斎藤に対する借入金については約定証書も存せず、同族会社の社長個人に対し利息支払をなすべき性質のものであつたものとは容易に解し難いことが推認される。
右認定の各事実を総合して考察すれば右斎藤は、原告会社が同人を中心とする同族会社であることを利用し、同会社には右借入金については利息の定めがなかつたにも拘らず、昭和三六事業年度(昭和三二ないし三五事業年度においては原告会社は法人税賦課の対象となるべき決算利益を生ぜず、昭和三六事業年度において始めて二六六万三、九一三円の決算利益をあげた旨の確定申告がなされた点、当事者間に争いがない。)において同人が延滞利息の名目で原告会社から特別の利益を受け、これを経費支出として原告会社の法人税額を軽減させようと企て、前記社員総会の決議を経て前記五〇万五、八三六円の支払を受けたとみるのが相当であり右金員の支払いは当時の法人税法施行規則(昭和二二年勅令第一一一号)第一〇条の三第四項、第一〇条の四に定める賞与に該当し、同会社の損金に算入すべきものではないというべきである。
もつとも、証人中野英男の証言およびこれによりその成立が認められる甲第二号証、原告会社代表者本人斎藤隆輔尋問の結果中には原告会社の主張に副い、昭和三二ないし三五事業年度において同会社が右利息の支払いをしなかつたのは、右斎藤から会社に利益金を生じるまで支払の猶予を受けていたためであるとする記載および供述がある。しかし、右支払猶予がなされていたのであれば当然右各事業年度において右未払利息が存在し、これが原告会社の右各事業年度の貸借対照表負債の部に記載され、また法人税確定申告に当りその計算の基礎としてあげられていなければならない筈であるが、右各事業年度の貸借対照表、法人税確定申告書中にはかかる記載若しくは挙示がなされていないことは前示認定のとおりであり、証人中野英男の証言、原告会社代表者本人斎藤隆輔尋問の結果によれば、原告会社の税務、会計事務の処理には公認会計士中野英男が関与していたことが明らかであるが、未払利息があるのに、これを貸借対照表の負債の部に記載せず、かつ法人税の確定申告に当つて考慮しないというような税務会計の原則に反する処理がなされたものとは考えられないから、右甲第二号証中の記載、証人中野英男の証言、原告会社代表者本人斎藤隆輔の供述はにわかに採用できず、ほかに前記認定を覆がえすにたりる証拠はない。(なお前記支払猶予の主張を原告会社に利益金を生じた場合始めて利息支払の債務を発生させる旨の停止条件付約定であつたとの意に解するにしても、右利息支払義務が将来遡及的に発生すべきことが予見され、しかもその債務額が確定しているかぎり、経済的にみて、なんら支払猶予の場合と異なるところはないから企業会計の原則に従つて処理すべきことはいうを俟たない。)
三、そうだとすれば、原告会社がした右未払利息支払いの損金計上を否認し、これを原告会社の益金に加算した被告の更正処分は適法であつて、前記更正処分中右支払利息とこれを前提とした差引所得金額、法人税額を除く部分は当事者間に争いがないから、原告会社の昭和三六事業年度差引所得金額は一三八万一、九七二円となり、これに対し法人税法(昭和二二年法律第二八号)の規定により四三万一、六一〇円の法人税を課した被告の前記更正処分にはなんらの違法もないものといわなければならない。従つて右更正処分の一部取消を求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 鈴木醇一 裁判官 竹重誠夫)
要約書
原告側
申立
被告が原告に対し、昭和三七年六月二三日付でなした原告の昭和三六事業年度分法人税確定申告に対する更正処分につき、益金に加算された支払利息五〇五、八三六円、所得金額一、三八一、九七二円の中五〇五、八三六円、法人税額四三一、六一〇円の中一六六七六〇円を各取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
主張
(請求の原因)
一、原告は、被告に対し、昭和三六事業年度分(自昭和三六年一月一日至同年一二月三一日)法人所得金額及び法人税額につき、法定期限内に左のとおり確定申告をした。
1 決算利益 二、六六三、九一三円
2 益金に加算すべき控除所得税 四、一六九円
3 益金より控除すべき金額
イ、税金引当金より支出した金額 四〇円
ロ、繰越欠損金 一、八三〇、四四九円
4 差引所得金額 八三七、五九三円
5 法人税額 二五一、九五六円
二、被告は、右確定申告に対し、昭和三七年六月二三日付で左のとおり更正処分をなした。
1 決算利益 二、六六三、九一三円
2 益金に加算すべき金額
イ、控除所得税 四、一六九円
ロ、貸倒損金 二一四、四〇四円
ハ、雑収入税漏 三〇、〇〇〇円
ニ、同計上漏れ 一五五、九〇〇円
ホ、支払利息 五〇五、八三六円
3 益金より控除すべき金額
イ、税金引当金より支出した金額 四〇円
ロ、繰越欠損金 二、一九一、六六三円
ハ、受取配当金の益金不算入 五四七円
4 差引所得金額 一、三八一、九七二円
5 法人税額 四三一、六一〇円
三、右更正処分のうち、益金に加算された支払利息(二、2ホ)とこれを前提とした差引所得金額及び法人税額(二、45)を除く部分については、原告に異存はないけれども、右支払利息は、益金に加算さるべき筋合のものではなく、ひつきよう右更正部分(二の2ホ、45)は違法である。
四、そこで原告は、右更正処分を不服として、その頃被告に対し再調査請求をしたが棄却されたので、昭和三七年一一月一九日広島国税局長に対しこれが審査請求をした処、昭和三八年二月一五日付で棄却された。
五、よつて、右更正処分のうち、前記益金に加算された支払利息五〇五、八三六円(二、2ホ)とこれを前提とした差引所得金額一、三八一、九七二円(二、4)のうち五〇五、八三六円及び法人税額四三一、六一〇円(二、5)のうち所得金額八七六、一三六円に対し算出される法人税額を超過する一六六、七六〇円につき、各その取消を求めるため本訴請求に及んだ。
(認否)
一、争。
二、認める。
三、原告が、昭和三二ないし三五年事業年度において決算利益を有しなかつたこと、右年度中斎藤隆輔に対する利息の支払いをしなかつたこと、昭和三六事業年度において、被告主張のとおり、原告会社社員総会の決議に基づき、斎藤隆輔に対し、昭和三二ないし三五事業年度分延滞利息合計五〇五八三六円を一括して支払つたことは認めるが、その余は争う。
昭和三二ないし三五事業年度中右利息の支払いをしなかつたのは、原告に利益が存しなかつたため、その支払を猶予して貰つていただけである。
四、原告が斎藤隆輔を中心とする同族会社である点を除き、その余は争う。
被告側
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
(認否)
一、認める。
二、認める。
三、原告に異存のない部分を除きその余の主張は争う。
四、認める。
五、争う。
尤も、所得金額八七六、一三六円に対して算出される法人税額は、四三一、六一〇円より一六六、七六〇円を減じた金額になることは認める。
(抗弁)
一、本件更正処分のうち、原告がその取消を求める部分は、何ら違法ではなく、次項以下において述べるとおり適法になされたものであるから、原告の本訴請求は失当である。
二、原告は、その主張にかかる確定申告をなすに当つて、該確定申告書には明記していないが原告代表取締役斎藤隆輔に対する借入金の支払い利息として、左記既往年度分利息を昭和三六事業年度分の損金に計上していた。
1 昭和三二事業年度分利息 一五六、一三八円
2 昭和三三事業年度分利息 六八、七〇一円
3 昭和三四事業年度分利息 一七六、二五三円
4 昭和三五事業年度分利息 一〇四、七四四円
5 合計 五〇五、八三六円
三、原告の右措置は、左記理由によるものである。
原告は、昭和三二ないし三五事業年度においては、法人所得が欠損状態にあつたため、納税の必要は存しなかつた。然し乍ら、前項記載の斎藤隆輔に対する各年度の利息をそれぞれ原告の損金に計上すれば、右斎藤に対し所得税が課税されることを考慮し、右各年度中は、原告の決算上これを無利息とし、原告に支払義務は存しないものとしてその都度総会の承認を得右各事業年度の法人税確定申告書にも右利息については何ら記載していなかつた。
しかるに、昭和三六事業年度において、原告は予想外の決算利益を生ずるに至り、昭和三六年一二月二八日の社員総会で昭和三二ないし三五事業年度分の斎藤隆輔に対する延滞利息の名目で前記五〇五、八三六円を一括して損金に計上することを決議し、その頃右金員を同人に支払つた。
四、前項記載の措置は、本来昭和三二ないし三五事業年度においては、原告の右斎藤に対する利息支払義務は存しないのに拘らず、原告が、同人を中心とする同族会社であるところから、昭和三六事業年度において、同人が延滞利息の名の下に実質上特別の利益の配分を受け、一方、原告の法人税の負担の軽減を図つたものというべきである。従つて、原告の右代表者斎藤隆輔に対する五〇五、八三六円の支払いは、当時の法人税法施行規則一〇条の三、四項、一〇条の四所定の賞与に該当し、損金に算入すべきものではないから被告は、原告のなした前記計算を否認し、国税通則法二四条により原告主張のとおり更正処分したものである。